書評

【名作をアレンジ】「新釈走れメロス他四編」感想

「夜は短し歩けよ乙女」で山本周五郎賞を受賞、2018年には「ペンギン・ハイウェイ」の映画化作品が大ヒットした作家・森見登美彦先生。そんな森見先生が過去の名作を森見流に書き直した作品集があるのをご存知ですか?

「新釈走れメロス他四編」とは?

その作品集とは「新釈 走れメロス 他四編」。

  1. 中島敦「山月記
  2. 芥川龍之介「藪の中
  3. 太宰治の「走れメロス
  4. 梶井基次郎「桜の木の下
  5. 森鴎外「百物語

という5つの名作の森見版が収録されています。

2007年に祥伝社より刊行され、2009年に文庫化。2015年には角川文庫からも出版されています。今回読んだのは角川文庫版で、以前祥伝社文庫版を読んでいたので、内容的には再読になりました。祥伝社文庫版と異なる点は、あとがきと解説が少し増えた程度で、本編の内容は同じです。

原典を知っていても、知らなくても楽しめるようになっているので、原典→本作→原典→本作……どんな順番でもOK。

斎藤秀太郎という男

5作品すべて原典のエッセンスと森見先生の設定・文章力で、どれも秀逸に仕上がっています。その中でもあえて自分が好きな作品を選ぶとすれば「山月記」です。

原典では博学才穎ではあるがプライドの高い主人公の李徴が、詩家として名を残すことに決めて仕事をやめるもうまくいかず、結局かつての同僚よりもはるか下の地位の仕事につくことになるが、発狂して虎になる……といったあらすじの話でした。

新釈森見版では、李徴が斎藤秀太郎という超変わり者の大学生に。彼は自分が偉大な作家になると信じて疑わず、他の人を見下し、常に大作のために何かを書いています。しかし同輩が学部も大学院も卒業し社会人になり何年も経っても、斎藤秀太郎の名は轟かず。なぜなら彼は発狂し天狗になっていたのです……

自信満々の偏屈な変わり者、斎藤秀太郎。山月記のなかで見ると彼は「失敗」していて、心の中での葛藤を語る独白は真に迫るものがあります。

 

森見作品は別作品のなかで同じ人物が登場したり、物語が交錯するのも醍醐味の一つ。「新釈 走れメロス 他四編」は5つの作品が同じ世界で繰り広げられるため、一つ一つ抜き出しても全体としても見ても楽しめるようになっています。

中でも作品集1作目の斎藤秀太郎はその後の作品にもたびたび登場する重要な人物。特に「桜の木の下」の主人公は斎藤秀太郎を師と仰ぐ物書きで、物語が展開するにつれ、別の話なのに斎藤秀太郎の心中を思って涙してしまいました。

それほどまでに魅力的な斎藤秀太郎という人物をぜひ感じ取っていただきたい。

森見の不気味な話

森見登美彦といえば一般にアホな大学生の話を書いているという印象で知られています。おそらく。「夜は短し歩けよ乙女」や「四畳半神話大系」、そして今回紹介している「新釈 走れメロス 他四編」も京都の大学生が主人公です。

しかし「桜の木の下」や「百物語」のどことなく物語に漂う不気味さをかもす文章も、森見先生の特徴のひとつ。怪しい、不気味な文章で、ホラーとはどこか違う独特な文章でスッと読者を引き込んでしまう魅力があります。

もし「新釈 走れメロス 他四編」を読んで、こういった雰囲気を感じたくなったら、「きつねのはなし」や「夜行」あたりを読んでみると幸せになれるでしょう。

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